LOGIN主人公の梅乃が老舗妓楼で様々な経験をする。 妓楼や花魁、玉芳などから寵愛を受けて梅乃が花魁になっていく物語
View More第 百六話 梅乃と梅乃 明治九年、秋。 東京での反政府勢力の討伐が完了した。 東京には大きな勢力はなく、士族や華族などが結成した小組織が騒ぎ出したことを近衛師団が鎮圧したのである。「大木様、お疲れさまでした」 梅乃がニコッと微笑むと「うん、梅乃ちゃんもご苦労だった」 大木は梅乃の頭を撫でる。近衛師団が鎮圧したが、その前に出ていった兵士の負傷者が多く出た。 どの救護所にも多くの犠牲者が溢れている。 「三原さん…… そちらに負傷兵を回せますか?」 医学生が大声で梅乃に訊く。 「はい、連れてこられますか?」 梅乃も手当てをしながら返事をする。 梅乃が手当てをする場所に仲間の兵士が肩を貸し連れてくる。 「すまん、嬢ちゃん…… よろしく頼む」 兵士が仲間を横にすると (これは……) 梅乃が息を飲む。 負傷した兵士は、出血が酷く顔が青かった。 梅乃が立ち上がり、宿舎のベッドの空きを確認するが (一杯か…… 誰かを出せるかな……?) 梅乃は一人ひとりの状態を確認していく。 「みんな起こせる状態じゃないな……」 そして困った顔をして現場に戻ってくると 「どうだい? 診れそうかい?」 仲間の兵士が訊く。 「どの寝所も埋まっていますが、私の場所なら……」 覚悟を決めた梅乃は、自身が寝ている場所を提供する。 「すまない…… アンタ、本当に噂通り『白衣の天使』なんだな」 初めて聞いた言葉に 「天使?」 頬を赤らめ、照れる梅乃であった。 「こちらへ……」 梅乃が案内すると、負傷した兵士が小声で言う。 「俺はいいから、他のヤツを……」 それを聞いた梅乃は 「優先順位は私が決めます。 今は横になっておくんなんし……」 つい、使い慣れた郭言葉を出してしまうと 「アンタ…… その言葉は?」 「私の故郷は吉原でありんす。 大見世、三原屋がありますので元気になったら寄っておくんなんし……」 梅乃が微笑むと、怪我をした兵士が笑顔になっていく。 (なんて娘なんだ……) 他の兵士も唖然とし、治療に入る梅乃を見つめていた。 梅乃が治療を進めていくと、手が止まってしまう。 (出血が酷い…… 確か先生が言っていたのは血液には型があって、それに一致しない血液を入れた場合は死んでしまう…… だけど、血を入れないと このままじゃ……) 梅乃は悩
第 百五話 白衣の天使 「……さん、お薬です」 梅乃が兵士の治療を続けて一ヶ月以上が経過していた。 「すまない……」 兵士が薬を飲み、横になっていると 「貴様…… いつまで寝ているんだ! 早く戦地に戻らないか!」 上官の声が響く。 「あの…… これでも良くなってきていますので、もう少し……」 梅乃が上官に話すと 「医者の分際で…… それも小娘が意見すると言うのか!」 上官は梅乃を睨む。 「そう言うな…… 彼女も医者として、沢山の兵を救いに来ているんだ」 上官をなだめるのが大木である。 気性が荒くなっている兵士から守る為に宿舎に駐在していた。 「大木様、ありがとうございます……」 梅乃が頭を下げると、 「いいんだよ。 これも役目だからな」 大木はニコッと微笑む。 治療が済むと、梅乃たち医学生は機器の整理をする。 現代の用語で言えば、戦地では急患ばかりである。 非常時にも対応できるように器具の整理は大事なことだ。 「包帯はどれくらい残っている?」 医学生の一人が訊くと、 「もう、少ししか残っていませんね…… 私、取りに行ってきます」 梅乃は宿舎から少し離れた場所にある病院へ向かっていった。 東京では大騒ぎになる戦はないが、政府に反対する組織が潜んでいる。 少人数で兵士に奇襲をかけることが多かった。 (誰が政府に反対する人なのか分からないな…… みんな普通の人に見える) 「ごめんください……」 梅乃が病院に着くと、 「うわぁぁ……」 「ぎゃー」 沢山の人の叫び声が聞こえる。 「こんなに沢山…… 手伝います!」 梅乃は病院の医者の中に入り、手伝いをしていく。 「これでよし! 良くなるまで安静にしてて下さいね」 梅乃が笑顔で兵士を見る。 「すまない…… 嬢ちゃん、ありがとな……」 兵士はニコッとする。 (兵隊さんと言っても、みんな普通の人間だ。 働いている場所が兵隊さんなんだもん) そこに大怪我をした者が運ばれてくる。 身体中から出血し、痛がっていた。 「さぁ、こちらへ……」 梅乃が合図をするが、他の医者たちは無反応になっている。 「どうされたのですか? 運ばれてきましたけど……」 梅乃が言っても、誰も治療を行おうとはしない。 「??」 そこに一人の男性の医者が口を開く。「この者の治療はしない。 君は宿舎に帰り
第 百四話 傷跡 「こんにちは……」 梅乃が宿舎に到着したのが昼過ぎ。 朝に出発して徒歩でやってきたのだ。 「あぁ、よろしくね」 この宿舎には三人の医学生が派遣されている。 (東郷様はいないのか……) 梅乃が服を着替え、白衣を抱えて出てくると 「早速だが案内する」 近衛師団の大木が宿舎の案内を始める。 「ここは待機をする寝所だ。 隣が医務室になっていて、治療をする場所となる……」 大木が歩きながら説明すると (やっぱり政府の病院は凄い…… 道具ひとつを取っても見たことのないものばかりだ……) 中でも梅乃が驚いたのが 「これは顕微鏡と言って、身体の細菌などを見るものらしい……」 大木が説明すると、梅乃は顕微鏡を覗き込む。 「どうした? 興味をもったか?」 大木が訊くと、梅乃はニコッと微笑んだ。 後に済生学舎の後輩にあたる野口英世も顕微鏡を覗き込んでは、メモばかりしていたとか。 梅乃が器具を眺め、目を輝かせていると “ドンドンッ ” 一人の怪我人が運び込まれてきた。 男は足から血を流し苦悶の表情をしている。 「わかりました。 そこで横にさせてください」 梅乃が一番に声を出すが、他の医学生二人はポカンとしていた。 (ほう&hellip
第 百三話 最終試験 「それでは始め!」 後期の試験が始まる。 後期の試験は「外科学、内科学、薬物学、眼科学、産科学、臨床実験」である。 (なかなか難しいな…… 楽しくて夢中になっていたのは薬物学と産科学だったからな……) 薬の調合は楽しくて夢中になっていたのと、吉原の妓女は妊娠することが多いため堕胎や出産を何度も見てきた梅乃にとっては実践さえ済んでいたほどだ。 「よし、そこまで……」 先生の声が響くと、試験が終了した。「梅乃ちゃん、お疲れ様。 どうだった?」 東郷が労いと感触を訊くと 「外科が苦手でした…… 眼科はさっぱりで」 梅乃は苦笑いで答える。 「僕は産科学がダメかな…… 梅乃ちゃんは苦手じゃなかったの?」 「はい。吉原では妊娠する人も多いですし、堕胎も出産も立ち会ってきましたから」 梅乃はニコッとする。 「それは凄いな…… ところで、臨床学が出なかったけど……」 「そういえば出なかったですね? 先生が忘れたのでしょうか?」 二人が不思議に思っていると、教室では先生が暗い顔をして立っていた。 「全員、席について」 試験を受けた生徒が着席すると
第四十六話 袖を隠す者 昼見世の時間、禿たちは采に指示を受けていた。 「いいかい、妓女として芸のひとつは身につけておかないとダメだ! 舞踏、三味線、琴でもいい…… わかったね!」「はいっ!」 三人は元気に返事する。 この冬を越えれば梅乃と小夜は十三歳となる。 菖蒲や勝来は十四歳の終わりに水揚げをし、十五歳になったら客を取
第三十八話 逆襲「こんにちは~」 梅乃が挨拶をする。この日は赤岩と往診に出ている。「あ~ 梅乃ちゃん、いらっしゃい。 先生もありがとうございます」そう言って、妓楼の中に入れてくれたのは小松崎である。以前、大量の足抜により頭を抱えていた『小松屋』の店主である。梅乃の活躍によって足抜は無くなり、見世を維持できていた。そんな小松屋が三原屋に往診を依頼してきていたのである。赤岩と梅乃が大部屋に入ると 「一列に並んでくださーい」 梅乃は早速、妓女並ばせる。(すっかり手慣れたもんだな……) 赤岩がクスッと笑う。「では、始めます」 赤岩が言うと、梅乃が妓女の服の下を確認していく
第二十二話 昼《ひる》行燈《あんどん》「潤さん、おはようございます」 梅乃は早起きをして、見世の前をホウキで掃いていた。「おはよう、梅乃~」 片山も朝早くから掃除をしていた。初夏になると朝陽が昇るのが早い。早い時刻に外が明るくなる為、自然と『後朝の別れ』も早くなっていく。“ゴーン ゴーン ” と、掃除をしている途中に、浅草寺の鐘が鳴る事も稀《まれ》である。そこに赤岩が現れた。「おはようございます」 そう言って、赤岩は身体を伸ばしていた。「赤岩さん、いつも早いですな~」 片山が声を掛けると「夜、寝るのも早いですから~」 赤岩はニコッと答えた。(あれ? 赤岩さんの部屋、
第二十話 新しい禿「……」「へっ?」 梅乃と小夜は驚いていた。「何、ボーっとしているんだい! 部屋割りと仕事を教えてやるんだよ」采は梅乃たちに言っていた。「は、はい―」 三原屋は、新しい禿を迎えいれることになったのである。(先日の客は、この事だったのか……) 梅乃は思い出していた。時を戻して三十分前、「梅乃、小夜、新しい禿になる古峰《こみね》だ。 しっかり教えてやりな」 采の言葉だった。そして古峰は 「……」 無言だった。(この娘は……声が出せないのかな? たまに吉原では変わった人はいるけど……) 「こんにちは。 私は梅乃、よろしくね♪」 梅乃は、『最初が肝心《か